福岡高等裁判所 昭和31年(う)210号・昭31年(う)214号・昭31年(う)213号・昭31年(う)212号・昭31年(う)211号 判決
原判示第一の被告人矢野千年が被告人秋吉孝に対し金三万一千二百円を供与した事実に関し、原判示趣旨のもとに供与されたものでなく、被告人等の居住する両子区の従来の慣例に従い右区に対し支出したものであり、更に右金員の処分に関しても被告人矢野は全然関知しないものであるというのであるが、原判決挙示の証拠によれば、出納責任者である被告人秋吉孝が被告人等居住の両子区長並びに組合長等協議の席に呼ばれ同区民各戸に一戸当り金二百円宛の割合で候補者から出金するよう要請されたのでこれを承諾し、被告人矢野に対し選挙費用と共に右各戸宛の配布金額の出金方を求めた結果、被告人矢野は右配布予定額三万円を含めて金五万円を被告人秋吉孝に手交したものであることを優に認めることができるから、原判示趣旨に所論のような誤認の点はない。しかし原判示は、前記金額五万円から第一区における法定選挙費用制限額一万八千八百円を控除した残額三万一千二百円を原判示趣旨の供与額と認定しているけれども、受供与者である秋吉孝は出納責任者であつたのであるから、右控除額が直ちに原判示趣旨の供与額であると認定するのは聊か早計の譏りを免れず、他に原判示金額を認定するに足る証拠も十分でない。むしろ本件記録中の安岐町長作成の証明書によれば両子区における戸数は一三四戸であるから、前記区長組長及び被告人秋吉孝の協議の趣旨に従い一戸金二百円の割合による二万六千八百円とみるのが相当である。従つて論旨はこの点において理由があり、右誤認は判決に影響を及ぼすべきこと明かであるから、原判決は刑事訴訟法第三九七条により破棄を免れない。
(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 鈴木進 裁判官 厚地政信)